”私”から”私たち”へ =「ツボ」④ コモンズを広げる!
天草市五和町城河原の公園づくりを通じて気づいたコミュニティやコモンズを広げていくためのツボ、最後のツボは「コモンズを広げる!」です。
「コモンズ」という言葉、最近、少しずつ耳にする機会が増えてきましたが、まだ聞き慣れないという方も多いかもしれません。コモンズとは、個人のものでも、公共のものでもなく、みんなで管理し活用していく“共有の財”のことです。森、川、海‥、みんなにとって大切なものをみんなで管理し、守っていく。かつては里山をコモンズとして、地域の人たちがともに管理し、木や薪、肥料用の落ち葉やキノコ、山菜など、山の恵みを分かち合っていました。入会林と呼ばれる林は厳しいルールを決めてみんなで管理していたそうです。今では殆ど姿を消してしまいましたが、社会のつながりが失われつつある今、改めてコミュニティをつなぐ基盤となるコモンズに注目が集まり始めています。
今年2月、天草市五和町で公園づくりに取り組んだ場所は、山神様の近くのパワースポット的な場所だったのですが、所有者は一人の個人でした。その方に相談すると二つ返事で「皆さんのものとして使ってください」と言って下さり、プロジェクトがスタートできたんです。大学生と住民の皆さんがうっそうと茂っていた竹を伐り倒し、放置されていた倒木を片づけると、明るい陽射しが射し込む素敵な場所に生まれ変わりました。今後はコモンズとして地域の皆さんがともに管理し、手を入れ続けることになります。人と人をつなぐ大切な拠点ともなりそうです。所有者の方も先祖代々の大切な土地の手入れが十分できず気になっていたということで、感謝の気持ちを伝えてくださるとともに、公園づくりに一緒に参加してくださいました。
いま日本の農山村では高齢化が進んで人口が減り、木材価格の低迷で林業も衰退、身近な里山の多くが放置され、荒れてしまっています。かつては薪を拾ったり、山菜を採ったり、暮らしを支えていた身近な里山も、今では足を踏み入れられない場所が目立ちます。農業を続けられなくなる人も相次いでいて、天草でも放置された田や畑、いわゆる耕作放棄地が至るところにあります。
日本の人口は急激に減り続けています。去年は約180万人、熊本県の人口の半分くらいが日本からいなくなった計算になります。当たり前のことですが、それでも土地はそのままあり続けます。戦後、人々が豊かになれるようにと全国各地で森の木々が伐採され、人工林となり、田や畑も広がりました。いったん、人の手が入った山や田畑はきちんと管理をし続けなければ、土壌の力が弱まって災害を起こしやすくなったり、環境に悪い影響を与えたりします。でも、土地を所有する個人も行政も、もはや手が行き届かない。食料を作る担い手は減り、環境は悪化、地域のつながりも薄れていく。地方から都市部へ人の流出に歯止めがかからず、悪循環に歯止めがかかりません。
人口が減り続ける日本で人々が安心して暮らしていくためには、新たな道の選択が必要だと考えます。一言で言うと、主語を変えて考え行動するということです。I(私は)から、We(私たちは)へ、My(私の‥)からOur(私たちの‥)へ。自分だけよければいい、というのではなく、みんなのことを考え、みんなで一緒に取り組んでいく。まさにコモンズです。そうすることで資源も有効に使えますし、コミュニティのつながりも強まり、安心して暮らせる持続可能な地域づくりにつながります。
すでに各地でそうした動きは広がりつつあります。かつての入会林を再生し、地域資源として活用する取り組みや、森林を共同で管理し、観光資源として活用するプロジェクト、地域住民が協力して農業を行う取り組みなどが始まっています。地域を活性化し、環境の保全にもつながる動きです。
天草市でも里山を楽しみや学びの場に変える取り組みが始まっています。長く使われず、荒れていた山道を子どもたちと一緒に整備したり、台風で倒れた木を使ってみんなでツリーデッキを造ったり‥。木漏れ日や風を感じ、気持ちが落ち着く素敵なスペースが生まれると、遠のいていた足が再び里山に向かいやすくなります。畑をみんなの畑として一緒に自然栽培に取り組み、収穫したものをみんなで分け合う、そんな新しいコモンズにも挑戦したいと考えています。
コモンズを広げることは、人と人のつながりを取り戻し、暮らしの安心を支えることにもなります。まずは近くにある“使われていないもの”と“あったらいいな”を掛け合わせて「これ、みんなでやってみませんか」と声をかけるところから始めてみたらどうでしょう。
新しいコモンズを広げることが、私たちの未来を創ることにつながります。
