”私”から”私たち”へ =「ツボ」② ともに汗を流す
前回、お伝えしましたように、いくつもの偶然に導かれて去年12月からわずか2カ月ほどで天草市五和町城河原で「ホタルの里」の再生に向けた公園づくりが始まりました。日本大学工学部ロハス工学センター(福島県郡山市)の大学生と教員、地元住民の皆さん、そして私たちの初めての協働作業です。
ロハス工学とは、健康で持続可能な暮らしを実現するための工学で、私は日本大学の客員教授として毎年、地域課題の解決に向けたロハス工学の実践をミッションに大学生のインターンシップ活動を行っています。今回の公園づくりはその貴重な実践フィールドとなりました。
結論を先に言いますと、こうして様々な人たちがある一つの目標に向かって(今回は公園づくり)ともに汗を流す協働作業こそがコミュニティのつながりを作り出し、絆を深めていくために重要だということ、そこが「ツボ」なんだっていうことを実感しました。
大学生のインターンシップ活動の日程はすでに去年の夏の時点で、今年2月19日から一週間と決めていました。一方、地元の地域づくり振興会の皆さんと初めて顔を合わせ、ホタルの里の再生に向けた公園づくりの話が持ち上がったのが12月8日、時間の余裕はあまりありませんでした。年内に住民の皆さんと公園づくりの現場を確認、1月に入ってからは日大チームと二回、オンラインでつないで公園づくりの具体的な構想を練りました。


地元の皆さんからの要望は二つ。一つはホタルの里の再生に向けて、ホタルのエサとなるカワニナを増やすためのビオトープ(人工池)を造ること、そして山神様を祀っている窪地の広場と上の原っぱを安全に昇り降りするための階段を造ることです。ちょうど今回天草を訪れる大学生は、水質浄化と土木、二つの研究室に所属していて、それぞれビオトープづくりと階段づくりチームに分かれて取り組むことになりました。
実際に活動できる期間は1週間しかないので、その前に大学でできる準備はしておきたいということで、ビオトープや階段を造る場所の実際の寸法を測ったり、動画で撮影したりして、事前の情報を提供することになりました。振興会や地元の住民の皆さんが週末、現場に集まってくださり、崖をよじ登りながら距離を測ってくれました。女性の役員の方も参加して一緒に作業に加わって下さいました。こうして大学生たちは事前の準備を周到に重ねた上で天草にやくることができました。


公園予定地は長い間放置されていて、たくさんの竹が生い茂り、光がほとんど射し込まず暗くジメジメとしていました。ビオトープを造ってカワニナを育てるには適度な光が欠かせません。そこで、まずはうっそうと生い茂った竹を伐り倒し、斜面に雑然と放置された古い竹や木を片付けるところから始めました。
大学生や先生方にとって斜面の竹をナタで伐り倒したり片づけたりという経験は初めてで、非日常の体験を存分に楽しんでいるように見えました。急な斜面で滑りこける人もいて大変な作業ではありましたが、何といっても魅力は、作業をした分、きれいになっていくのが眼に見えること。切り倒した古い木や竹はその場で燃やすのですが、枯れた竹はものすごい勢いで燃えあがり、きれいに片付いていきます。2月はまだ寒さが厳しく、炎の温かさもありがたかったです。午後のおやつの時間には焼き芋や伝統のこっぱ餅を焼いて食べるなど、おまけの楽しみもありました。


誰かに指示されるわけでなく、参加した人がそれぞれ自分がやれることを考えてすすんで身体を動かしていきます。まちづくり振興会の役員の一人は「大学生が一生懸命やっている姿を見て住民がやる気になっていった、力を引き出してくれた」と話していました。日を追うごとに、当初予定になかった方も飛び入りで参加するなど、人数が増え、最終的な参加者はのべ100名を超えました。そしてわずか数日で暗くジメジメした公園に温かな光が射し込み、見違えるほど明るく素敵な場所に生まれ変わりました。「ホタルも減り、人口も減り、どげんかせんばいかん・・」、Kさんをはじめとする住民の皆さんの切実な思い、本気度がこうした動きを後押しする力になったようにも思います。(階段づくりとビオトープづくりの詳細はまた次回に‥)
昔は「道普請」といって地域の人たちが自分たちの暮らしに欠かせない生活道路を自分たちで造っていました。それが地域のつながりを作り出し、コミュニティの力を強めることにもつながっていました。今では公園づくりも含め、インフラの整備は私たちが納めた税金で公共事業として整備するのが当たり前になっていますが、財政が逼迫する今、行政に全てお任せではなく、こうした協働作業が薄れかけている地域のつながりを取り戻し、コミュニティの再生にも役立つと積極的に捉え直し、自分たちにできることは自分たちで楽しみながら取り組んでいくという発想も必要になってくるかもしれません。
次回も、公園づくりを通じて気づいたコミュニティやコモンズを広げていくための「ツボ」について続きをお伝えします‥。

