”私”から”私たち”へ =「ツボ」① 偶然の導き(2)
鬼の碁盤石の周辺を公園に、というKさんの構想を聞いて思いついたのが日本大学の学生によるインターンシップ活動との協働でした。私は日本大学ロハス工学センターの客員教授を務めていて、土木工学を地域の課題解決のために役立てるというミッションで毎年、数人の学生をインターンとして受け入れています。今年も2月に5人の学生が訪れることになっていて一緒に公園づくりに取り組めないだろうかと提案してみました。
Kさんも乗り気で、一緒に公園でホタルのビオトープ造りができないだろうか、という話になりました。Kさんが役員を務める城河原地域づくり振興会はちょうど今、「ホタルの里」の再生に向けて取り組んでいるのだそうです。城河原地区はかつてはホタルが乱舞し、大勢の観光客が集まっていましたが、ここ数年、その数が激減、ホタルのエサとなるカワニナを増やすためのビオトープ(人工池)づくりに取り込もうとしているとのことでした。そしてちょうどその週の土曜日、地域づくり振興会の役員が集まってビオトープをどこに造るか、初めて話し合うというのです(2つ目の偶然)。
今回、日大工学部から天草に派遣される学生さんの中にはちょうど水の浄化について研究している2人が含まれていました(3つ目の偶然)。担当の中野和典先生に電話で協力してもらえないかと相談すると「いいですね」と二つ返事。「生態系に強い関心を持っている学生がいるから彼に責任をもってやらせよう」と嬉しい返答をいただきました。
次の土曜日の朝9時に集合場所の旧城河原小学校に行くと、振興会の会長さんや副会長さんなど、役員の方々が勢ぞろいしていました。当初ビオトープを小学校の体育館脇に造ることを検討していたそうですが、金井さんが鬼の碁盤石の魅力を話し、私も日大のインターンシップ活動でビオトープ造りに協力したいと伝えると皆さん、前向きに検討してくれることになりました。鬼の碁盤石の周辺はちょうど副会長Tさんの地元で、しかもちょうどその日の午後、鬼の碁盤石そばの山神様の年に一度の神事があるとのこと(4つ目の偶然)。
予定の開始時間の前から住民の皆さんが原っぱの草刈りを始めていて、以前来た時には鬼の碁盤石の看板も見えないくらいに雑草が生い茂っていたのですが、きれいに刈られて気持ちのいい原っぱになっていました。原っぱの下の窪地では山神様のまわりをきれいにする作業とともに、区長のIさんが山神様とご神木を注連縄で囲み、注連縄に白い紙で作った紙垂(※しで、と読むそうです、初めて知りました)をつける作業を始めていました。Iさんは「縄ん真ん中に指ば入れて広げて、そこにこん紙ば差し込んでください」と私にも手伝わせてくださいました。こんな神聖な行事に新参者の私が加わらせていただけるなんて思いもせず、嬉しかったです。副会長さんが区長のIさんに公園づくりの話をされると、なんと山神様周辺の土地の所有者は区長さんご自身でした(5つ目の偶然)。そして「木や竹を伐るなり、なんでん好きに手ば加えて良かですよ」と言ってくださいました。






というわけでKさんに話を持ちかけてからわずか数日で、偶然の導きがいくつも重なり、鬼の碁盤石近くを公園にしてビオトープを造ること、日大のインターンシップ活動でそのお手伝いをさせていただく、という道筋が見えてきたのでした。最終的な決定は、城河原の私たちの新しい拠点で夜、役員の皆さんと食事をしながら話し合い、了承をいただきました。

ちなみに、こうして私が思いがけず、城河原地区のたくさんの方々と新しい出逢いをいただき、色々なことが動き始めることになった日は、私が城河原の空き家を購入することを決め、不動産屋さんに手付金を支払い、ここにじっくりと腰を落ち着けて取り組む覚悟を決めた翌日でした。そしてその日は、私の誕生日でもありました(6つ目の偶然?)。
いくつもの偶然が続く中で、これからきっと面白いことが始まる!私は大きな誕生日プレゼントをいただいたような気がしました。そしてそれは、現実のものとなっていきます。
この話をまとめると単に「偶然が続いた」ということになるのですが、偶然がこれだけ続いた背景には偶然を導き出すための何らかのきっかけがあったのではないか‥。
頭を巡らせてみると、3つのワードが思い浮かびました。
「出会う」、「つながる」、そして「想う」です。
- 「出会う」。まずは積極的に人に会いに行ったり、催しにすすんで参加したりという行動を自ら起こすこと。今回の一連の動きは、Kさんに会いに行って話をしたところから始まりました。地域の清掃、神様の神事もよそ者だからと遠慮せず、積極的に参加することで受け入れていただけます。逆に言えば、出会うための一歩を踏み出さない限り、偶然も起きません。
- 「つながる」。コミュニティではSNSより人のツテが力を持ちます。今回もすべて誰かの直接の紹介でたくさんの新しい方にお会いすることができました。人から人へ、直接つながりを広げること。そうやって動き出せば、狭い地域ですし、偶然も起きやすくなります。
- 「想う」。一番大切なのは、その地域のこと、人々のことを大切に想う気持だと思います。想いが重なって初めて協働が始まります。地域の課題を本気で解決したいと思う気持、その地域への愛、それがなければ何も動かないし、偶然も起きることはないでしょう。
といいつつ、私の地域での実践はまだ始まったばかり。今後、実践を重ねることでこの「ツボ」もさらにブラッシュアップさせていければ‥と考えています。
というわけで、天草での日々の実践の中で気づいたコミュニティやコモンズを広げていくための「ツボ」、次回に続きます‥。 (後藤 千恵)

