エディブルフォレスト(食べられる森)

 「みどりの日」の5月4日(土)、「食べられる森」をテーマにしたイベントを開きました。家族連れなど25人が天草市内各地、また隣の苓北町から参加してくれました。カナダから来日中の園芸専門家、ウェス・コールマンさんと野草の専門家、山本愛子さんが案内役です。

 森の入り口につながる小道にはたくさんの野草が生えていました。普段は「雑草」とひとくくりにされ、気にとめられることのない草たちがこの日は主役です。まず出会ったのはスイカズラ。「この花の蜜、吸えるよ」と教えてもらうとすぐに口にふくむ子供たち。

 「わー、あま~い!」、砂糖の甘さとは違うすっきりした甘みです。かつて砂糖のない時代には甘みとして調理にも使われていたそうです。花の蕾や茎、葉は生薬としても用いられ、利尿や解熱作用があるとのこと、ツタの仲間で厄介者とされる雑草の代表格ではありますが、実は色々と有用な草なのだそうです。
 「この葉はグチャグチャにして汁を傷口につければ傷を治せる」とウェスさんが実践して教えて下さったのはオオバコです。このほか、ヨモギやドクダミなど食べられる野草もたくさん。食用にもなれば、薬用としても使える野草が目の前にたくさん広がっていて、いくらでも採取できます。知識とそれを活用する時間さえあれば、ただの野原が宝の山に変わるのですね。

 色々な野草をを楽しみながら歩いていくと、10分もしないうちに森の入り口です。森の中ではウェスさんが子どもたちにクイズを出しながら、楽しく色んなことを教えてくれました。

 この木には見慣れない大きな傷跡がいくつもついています。どうして森の中の木がこんなに傷ついてしまったのでしょう‥、犯人は一体、だれ?

 ウェスさんが子どもたちに手渡したのは‥

なんと、イノシシの骨!これはつい最近、ウェスさんが天草の山で見つけたものだそうです。何と大きくて鋭い牙!迫力がありますねェ。「木に牙をこうやってこすりつけて研ぐんだよ」とウェスさんが”実演”してくれました。

「俺も牙、研いじゃおうかなー」と、牙?を突き出すお父さんも‥(笑)

 この日のイベントの柱は、食べられる木の苗の植樹です。準備したのは、イチジク、タラの芽、そしてサンショウの木。子どもたちが3~4人ずつ3つのグループに分かれて、先日みんなで整備した小径の脇に苗を植えました。落ち葉が積み重なってできた腐葉土は柔らかくふわふわで、小学校低学年の子供たちでも大きなスコップで簡単に土を掘り起こすことができました。

 途中、長さ30センチほどもある青紫色の光沢あるミミズが姿を現しました。日本最大のミミズの一種シーボルトミミズ、通称山ミミズです。ミミズは落ち葉や生き物の死がいなどを土と一緒に食べてカルシウムやカリウム、リン酸など多くの栄養分を含む糞を排泄します。また、土を団子のようにまとまった状態(団粒構造)にして隙間をたくさん作るので、保水性や水はけ、通気性がよくなって根の成長が助けられます。山の中では肥料をやらなくても、こうしたミミズや土の中の菌、微生物の力で植物が大きく育っていくのです。

 ウェスさんの提案で、それぞれが植えた木に名前をつけることになりました。たとえば、左下の写真のイチジクの名前は「いちじく さおみち」。木を植えたメンバーの名前(さ:さわちゃん、お:おんくん、み:みよちゃん、ち:ちさとちゃん)の頭文字をとってつけたのだそうです。子どもたちはこれからもずっと「いちじく さおみち」をはじめ、自分たちで植えた木のことを忘れず、成長を見守り続けてくれるに違いありません。トレイルコースを散策しながら、おやつに森の中の色んな果実をいただく‥、早くそんな日が来ないかなぁ。

 今回、植えた苗はいずれも天草市内の知人の山に自生していたものをいただいたものです。苗はインターネットでも買えますが、地元で自生しているもののほうが気候や風土に合っているため、手をかけなくても力強く成長するからです。エディブルフォレスト=食べられる森づくりのポイントは人工的な関わりをできるだけ減らし、自然の力を引き出すということです。

 摘んだ野草は、野草の専門家の山本愛子さんが森のツリーデッキで天ぷらにして揚げてくれました。薫風を感じながら森のなかでいただくアツアツ、パリパリの野草の天ぷらの味は格別です。

 この日、天ぷらの食材となった野草はカラムシ、ドクダミ、ヨメナ、アカメガシワ、カキドオシ、ツルソバ、セイタカアワダチソウ、クサギ、アップルミント、イヌビワ、ハルジオン の10種類。愛子さんは天草で獲れたイノシシの肉を使ったミートボール、アメリカンドッグ、ホイル焼きまで準備してくださいました。

 野草もイノシシの肉も、食料危機が訪れた時には注目されることになるでしょうが、そうなる前の段階からこうした食事を楽しむ経験を積んでおけば、いざという時に慌てずにすむかもしれません。

 これから森の中に食べられる木をどんどん増やしていきます。森のふもとの耕作放棄地での自然栽培にも取り組みます。食料危機が来るかもしれないと心配するだけで何もやらないより、できることから、“楽しみながら”やっていく。皆さんも小さな一歩を楽しく踏み出してみてはいかがでしょう。

(あません理事 後藤千恵)

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