「ロハス(LOHAS)」=「Lifestyles Of Health And Sustainability」
日本大学工学部(福島県郡山市)は、健康で持続可能な生活と社会の実現に向けた工学を「ロハス工学」と名付け、2002年に教育と研究をスタートさせました。ロハス工学の教科書には、『資本主義経済とともに終わりを告げようとしている工業文明脱出のために「農工合体の新文明(=農工文明)」の時代が来る』と書かれています。「あません」はロハス工学センターとのコラボレーションで農工文明の時代の到来を見据えた小さな一歩を積み重ねていきたいと考えています。
2024年度版 日大工学部のガイドブックに対談掲載!「ロハス工学がつくる未来」
2024年度版 日本大学工学部のガイドブックに
ロハス工学センター長の岩城一郎先生とあません社員後藤千恵との対談を掲載していただきました。
対談「ロハス工学がつくる未来」
https://www.ce.nihon-u.ac.jp/motto/taidan.html
日本大学工学部工学研究所長兼ロハス工学センター長
土木工学科 岩城一郎教授からのメッセージ
この度は一般社団法人「天草1000年の人と土の営み」の設立、誠におめでとうございます。
10年来の友人である後藤千恵さんから今回の天草でのプロジェクトと、その中心人物である中井俊作さんのお話をおうかがいし、居ても立ってもいられず、GWに急遽、中野和典先生(日本大学工学部土木工学科教授)を誘い、生まれて初めて天草を訪れました。
中井俊作さんの経歴やこれまでの活動の詳細については他稿に譲るとして、ここでは私が中井さんにお会いし、話をお聞きした率直な感想をお話しします。何よりも驚いたのは、40年以上も前に今のこの世の中の惨状を予測し、自然と共生しながら、自給自足の生活を実践し続け、今に至っているところです。そこには、世の中の本質や行く末を深く考え、確固たる信念のもと、自身に対しては厳しく律する一方で、他者に対しては雄弁に語ることはあっても、決して自分の価値観を押し付けようとしない姿勢が感じられました。車中では、石炭火力発電所反対運動の世話人の一人として、またゴルフ場建設計画では反対地権者のまとめ役として苦労してきたことなどを伺いました。それだけであればよくある行政と環境保護団体との衝突ですが、中井さんは建設そのものに反対しているのではなく、住民に対する説明のプロセスや資料に異を唱えていることを知りました。実はそれこそが土木事業の問題であり、私自身、土木工学に携わる研究者として、改善の必要性を強く感じていたところでした。一方、こうして効率的に島内を回れるようになったのは道路網が整備されたお陰で、土木事業そのものを否定しているわけではないともおっしゃっていました。まさに良いものは良い、悪いものは悪いという判断を、俯瞰的に、かつ客観的になされる方だと感じました。
日本大学工学部では「ロハス工学」を研究教育のスローガンに掲げています。ロハス(LOHAS: Lifestyles of Health and Sustainability)とは「健康で持続可能な生活スタイル」の略で、これを工学の力で実現しようというものです。中井さんはまさにロハスの究極の体現者で、中井さんの生活スタイルをロハスの最上位に置くことで、個々のライフスタイルがどのレベルにあるかを捉えることが可能と感じました。
天草には里があり山があり海があります。この地ではこれからの時代に合った農林水産業のあり方を見直すチャンスにあふれています。そして温暖な気候は電気による空調に頼らない住環境の実現にうってつけです。本社団が健康で持続可能な地域社会を実現し、国内外への発信源となることを心より期待しています。そしてロハス工学がその一助となるのであれば喜んで日本大学工学部もサポートさせていただく所存です。
日本大学工学部土木工学科
中野和典教授からのメッセージ
一般社団法人「天草1000年の人と土の営み」の設立、おめでとうございます。5月初旬に天草を訪問した際の中井さんとの時間で感じたことを記し、お祝いの言葉とさせていただきます。
日本大学工学部が掲げるロハス工学により設営したロハスの家(令和元年東日本台風による浸水被害により撤去済)は、エネルギーと水の自給自足を目指す家でした。その場所で得られる太陽光、風力、地熱でエネルギーを賄い、その場所に降る雨で水を賄う。他者に頼らず自立すれば持続可能となる。そのような哲学の実現性をエンジニアの視点で検証してきました。しかし、重要な要素が欠けていました。それは「食」です。
そのようなこともあり、ひとのエネルギー源である「食」の自給自足を実践してきた中井さんの話は印象深く、強い説得力がありました。中井さんの自給自足の実績。それは誰もができることではないと思います。誰もが実践できるように、足りないことを支援するロハス工学が必要と感じました。
中井さんの案内で竹が乱立する森林を体験しました。竹がどのような問題を引き起こすのか、体験してみなければ分かりませんでした。今は緑豊かな山林も、薪を使っていた時代は禿山だったと中井さんは言っておられました。森林に手を入れて薪炭林に戻すとして、人口が減少する近未来の日本なら禿山にならずに済むのでしょうか。そもそも人手が足りない状況で、どうすれば森林の手入れが可能になるのでしょうか。そんな疑問が頭を巡った森林探検でした。
放豚による開墾の実践を見せていただいたことも勉強になりました。開墾の人手不足を豚が補えるとは想定外でした。中井さんが所持する広大な山林が、そのようなトライの場になり得ることを見せていただきました。トライしたいひとがいて、トライする場があること、実践によるトライ&エラーの繰り返しが許されることの重要性が良く分かりました。振り返ってみれば、ロハスの家もそうでした。机上の理論に終始せず、実際に実スケールでモデルハウスを造りました。そこで明らかになった課題がむしろ実用面では非常に重要であることは、実践しなければ分からなかったように思います。
気候変動、人口減少、エネルギー危機。現代の問題はどれも一筋縄ではいかない問題です。これまでの時代は、物事を単純化して分野毎の縦割り体制で解決してきたと言えます。しかし現代の問題は多面的であり、縦割り体制では解決できない問題ばかりです。多分野の人材が分野を超えて同じ場所で同じ問題に取り組む。「天草1000年の人と土の営み」では、そのような場を実現して欲しいと思います。気づいたひとが教え、できるひとが、できるところから始める。中井さんの行動がそのお手本です。「天草1000年の人と土の営み」による活動をロハス工学が支援できるよう、我々も頑張ります。