自給農という基本的人権

 中井さんは、自分で食べるものを自分で作る自給農は「基本的人権」であると一貫して唱え続けてきました。以下は、中井さんが35年前に書いた「基本的人権としての自給農」という文章からの抜粋です。

「ああ、一体誰が農を職業になどと位置付けたのだろう。なぜ、自分の食べ物を自分で作るという基本的人権を一方で投げ出して他方では奪って平気でいられるのだろう。お金はかつて人々を身分から解放したかもしれない。しかしお金に替え難い“生活”までをお金に換えてしまうことの不自然さに気づかないのは何故でしょうか?…この現代社会の危険性を認知して足ることを知る社会へ歩み出したいものです。戦争や破局に至ることを考えれば少々の自制は何のこともないでしょう。まずはできる人ができるところから。」

 中井さんは東京生まれ東京育ちですが、25歳で天草に移り住み、30歳から10年余りをかけて食物をほぼ自給自足できるようになったそうです。自分の下肥(排泄物)を汲んで野良に戻し、「種をまき、作物に手を添え、収穫して口に入れ、残滓・下肥を堆肥に積んで田畑に返す」という一連の循環の上に生活の礎がすわった時、「初めて安心し、人心地が付いた感覚を得て、ようやく伴侶を迎え、親となる気持ちに至った」といいます。それから40年あまり、中井さんは玄米菜食をベースにした自給自足の暮らしを続けてきました。

 七輪で玄米ご飯を炊き、畑で採れた旬の野菜を楽しんでいます。人間の身体と住んでいる土地や風土は切り離せず、その土地の自然に適応した旬の作物を育て食べることで健康に生きられる、まさに「身土不二」(しんどふじ)の実践です。