人間として、誇りをもって生きる

 どうして自給自足、ミニマルな暮らしを貫いているのか?
中井俊作氏の答えは、明快です。

「人間として、誇りをもって生きるため。」
「人類が人類のことだけを考えるのではなく、地球上に生きる他の動物や植物などすべての命に思いを馳せ、持続可能な生き方をする。それこそが、人間が誇りをもって生きるということ。」

SDGs(持続可能な開発目標)をはじめ、“持続可能”という言葉がこのところ、流行のように聞かれるようになったが、中井氏は早くから地球の危機的状況に警鐘を鳴らすとともに、環境に負荷をかけない生き方を自ら実践してきた。以下は1991年に中井さんが当時の行政の首長にあてて書いた提言書の一部です。

「世界中の自然環境が人々の欲望充足の対象として切り売りされ、略奪的に開発・消耗されてきました。…このままの勢いでは間違いなく、この地上は人を養いきれぬようになるでしょう。人間のわがままを野放しにできるほど、地球は豊かではないのです。…21世紀は現代文明そのものの存続が問われる世紀、飢餓と環境悪化に直面する世紀、人々が己の欲望を見すえ、自分自身と闘う世紀となることでしょう。…まず身を慎み、現場で踏み台になっている人々に手を差し伸べ(場合によっては身代わりとなり)、飢えと環境悪化に然るべき対策を打たねばなりません。」

 中井氏がこの提言書を書いた1991年からの30年で世界の人口は17億人増えて70億人を超え、資源・エネルギー、水や食料などの需要が膨らみ続けています。世界各地で森林が破壊され、絶滅の危機に瀕している野生生物は2万種以上、「第6の大量絶滅時代」とも言われています。地球温暖化の危機が長く叫ばれてきましたが、その進行に歯止めはかからず、各地で異常気象が頻発、灼熱地球に向かって後戻りできなくなる「ティッピングポイント」と呼ばれる臨界点が間近に迫っています。

 国連の報告書によると、2021年、深刻な食糧不足に陥った人は、国内紛争を抱える国々を中心に1億9000万人を超えています。さらに、ロシアによるウクライナへの侵攻で小麦などの穀物や肥料の流通量が世界的に減少、価格の高騰を招き、国連のグテーレス事務総長は、このままでは世界的な食糧不足に陥る恐れがあると警告しています。

 日本の食料自給率は1991年度には46%(カロリーベース)でしたが、2020年度は37%と先進国の中で際立って低くなっています。専業農家はこの10年で69万人減って全国で136万人、このうち70%が65歳以上です。“食糧安全保障”など言葉だけ、今後、お金を出しても食糧や肥料を輸入できないという事態に陥った時、一体誰が日本の食を支えるのでしょうか。